Najdorf 6... e6型を考える(1)

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新テーマ連載。

Sicilian DefenseのNajdorf Variationは極めて有名なオープニングで、1. e4に対して勝ちに行くための黒の序盤として、トップGMからクラブプレーヤーまで幅広く指されています。黒番で1. e4に対してNajdorfを指すプレーヤーは日本にも多いと思います。

定跡は極めて複雑ですが、黒としてはある意味では「目指すべき形」が明確であり、覚えやすい定跡ともいえると思います。

さて、Najdorfプレーヤーにとって必ず対策すべきなのが、6. Be3 (English Attack)でしょう。

GM NunnやGM Shortらの研究による、DragonのYugoslav Attackの攻め筋をNajdorfで使ったらどうなるか?という問いから始まった定跡ですが、Be3-f3-g4とする攻めの形がわかりやすく、Najdorf対策にEnglish Attackを採用しているプレーヤーも多いと思います。

English Attackに対する黒の対策は、人それぞれだと思いますが、6... e5が多いと思います。しかし私は6... e6に好感触を持っています。

この連載では、黒の立場から、English Attackに対して6... e6を指す際に何を考えるか、どのように指していけばよいかを紹介したいと思います。

第1回目はe6を突く形のNajdorfの歴史を考えます。

Ⅰ. 1923 Scheveningen大会

Scheveningen(スヘフェニンゲン)とはオランダ、デン・ハーグのリゾート地の地名です。この地で1923年、チェスの大会が開かれました。この大会で、e6とd6にポーンを並べる、Scheveningen Variationが指されたといわれています(Maroczy-Euwe, 1923)。

この大会の後、徐々にSicilian Defenseにおいてd6, e6にポーンを並べる形が流行するようになります。

当時のよくあるScheveningen Variationは1. e4 c5 2. Nf3 Nc6 3. d4 cxd4 4. Nxd4 Nf6 5. Nc3 d6 6. Be2 e6などのようにしてセンターにポーンを並べる形でした。これに対して白はe4, f4にポーンを並べ、白マスビショップをBe2-Bf3と使って戦っていました。

Ⅱ.Keres Attackの登場(1943)

Scheveningen Variationは、一定の評判を保っていましたが、そこに衝撃的な新手が現れます。

1943年のSalzburg大会でKeresが指した手で、現在ではKeres Attackと呼ばれます。これは、1. e4 c5 2. Ne2(Nf3でもいずれ同じです) d6 3. d4 cxd4 4. Nxd4 Nf6 5. Nc3 e6に対して6. g4!と指す形です。

余談ですが、1943年は独ソ戦の真っ最中です。ソ連のプレーヤーとして知られるKeresが、なぜ(現オーストリア領)ザルツブルクのトーナメントに出られたのか?と思って調べてみたところ、まずそもそもKeresはエストニアのプレーヤーであり、エストニアは1941年からドイツ占領下にあったそうです。ちなみに当時フランスにいたAlekhineもこのトーナメントに参加しています。

5... e6によってc8のビショップの効きが止まるためにこのポーン突きが可能になります。そしてすぐにg5まで延び、f6のナイトを脅かしつつキングサイドにプレッシャーをかけていきます。このように、キングサイドを押し上げるプランが、Scheveningen型のSicilianに対してこの後有効だと認識されていきます。

Ⅲ. Najdorf Variationの登場(1950年代)

さて、その後Sicilianの黒番でも、白番でも多くの新しいアイディアが生まれました。とりわけ最も重要なアイディアは、なんといっても5... a6(Najdorf Variation)でしょう。この一見手待ちにしか見えない(Fischerでさえ、「60」の中で5... a6を「手待ち」と言っています)手が、黒のb5突きを準備し、白からのNdb5を防ぎ、ある変化においては黒がRa7と指せるようになるなど、極めて多くのアイディアを見据えた手として多くのプレーヤーに愛されるようになります。

Ⅳ. English Attackの登場(1980年代)

Najdorfに対する白の対策も進化してきました。最初は6. Be2が多かったですが次第に6. Bg5が増え、1980年代には6. Be3(English Attack)も見られるようになりました。のちにQd2からO-O-Oとしてキングサイドを攻める手を見せつつ、クイーンサイドにも目を光らせ、6... e6に対して7. g4!?の可能性も残した柔軟な手です。

Ⅴ.KasparovとScheveningen Formation(1980年代)

さて、若きKasparovも黒番でScheveningenを愛用するプレーヤーでした。Kasparovは若いころは、Scheveningen型に組んでセンターを受けた後、a6, b5としてクイーンサイドを押していくプランを採用し、黒番での勝ちを重ねていきました。Scheveningen型が攻撃力を秘めているということを明らかにしたのはKasparovといっていいように思います。

一方、Kasparovのライバルとして知られたKarpovは、Keres Attackが大得意。Keres Attackは、白が主導権を握ることが多くなるため、a6, b5のプランを黒が取ることは難しいです。面白いことに、Karpov-KasparovでKeres Attackになった対局は1つしかないようです。お互いに相手の得意形を避けたということでしょうか?

Positional Playerとして知られるKarpovがKeres Attackが得意というのも面白い話ですが、KarpovのPositional Playは盤面全体に圧力をかけて相手の動きを奪うような指し方ということもできます。その意味では、Keres Attackからキングサイドのポーンを伸ばしていくプランは、ある意味ではKarpovのプレースタイルに合っているともいえるでしょう。

そこで、Kasparovは、いずれ後に必ず指すであろうa6を先に指し、そこからe6, b5と続ける指し方を採用しています。5... a6に対して6. g4??は指せないので。

この指し方がKasparovの専売特許かどうかは調べられませんでしたが、ここに至って、クイーンサイドアタックのための「Najdorf(5... a6)のScheveningen Formation(6... e6)」はいったんの完成を見たと言えるでしょう。

一方で白は、黒の手には関係なくEnglish Attack Formation(Be3 - Qd2 - O-O-O)を取ることができます。これで、5... a6 6. Be3 e6という手順の歴史が紐解けました。

せっかくKeres Attackを扱ったので、次回は7. g4!?でも扱ってみましょうか。