Spassky-Bronstein, Amsterdam 1956

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Apr 15, 2018, 8:05 AM |
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名局解説を書くという新たな試みです。

 

第1回となる今回は、Spassky-Bronsteinの1956年のゲームを取り上げます。チェスの歴史(あるいは映画)に詳しい方であれば、Spassky-Bronsteinの1960年のゲームを御存知の方は多いでしょう。

1960年のゲームは、「007 ロシアより愛をこめて」で使われたKing's Gambitの名局です(さらに言うと映画の登場人物Kronsteenはチェスのグランドマスターという設定で、Bronsteinから名前を取ったことが明白ですね)。1960年のゲームも美しいゲームなのでぜひ並べてみてください。

 

閑話休題。今回紹介する1956年のゲームは、Amsterdam Candidatesでのゲームです。つまり、1957年の世界選手権の挑戦者決定戦です。序盤から極めて独創的な構想が目を引くゲームです。

1.d4 Nf6 2. c4 g6 3. Nc3 Bg7 4. e4 d6 5.f3

King's IndianのSaemisch Variationです。非常に複雑な局面になりやすい定跡で、それゆえかSaemisch Variationで始まる名局は数多くあります。

5... e5 6. d5 Nh5

変わった手ですが定跡化されています。

7. Be3 Na6 8. Qd2

Saemisch Variationの白のプランとしてはBe3-Qd2というフォーメーションを取ってBh6から黒のフィアンケットビショップを消しに行くプランが有力です。

8... Qh4+ 9. g3

Saemisch Variationでは、白は常にe1-h4のダイアゴナルには気を配らないといけません。Bronsteinによれば「9. Bf2には9... Qe7を用意していた」("Bronstein, D. & Furstenberg, T. (1995) Sorcerer's Apprentice"より、翻訳は執筆者(以下同))とのことです。白ビショップがf2では仕事がないためe3に戻らざるを得ず、そうなると黒が手得している(0手でクイーンをe7に動かせた計算になる)という意味でしょうか。難しいですね。

Position After 9. g3

さて、この局面でクイーンがe7に戻るのであれば意味が分かりませんので、別の手があるはずです。

目につくのは9... Nxg3ですが、これは10. Qf2とされてナイトがピンされます。それでは……

9... Nxg3!!!

Max Euwe博士は「こんな手を思いつくとしたらBronsteinくらいである」と書いています(前掲書)。この後どうなっていくか見ていきましょう。

10. Qf2 Nxf1 11. Qxh4 Nxe3 12. Kf2 Nxc4

クイーンと、ビショップ2つ+ポーン2つの交換になりました。

13. b3 Nb6 14. Nge2 f5

Bronsteinはこのポーン形に高い評価を与えていますが、もともとBronsteinの棋風はポーン形を崩してでもDynamic compensationを求める棋風であったはずで、そういう意味では序盤はあまり成功していないとみなされるかもしれません。

15. Rhg1 O-O 16. Kg2 Bd7

中盤ではR+PよりB+Nのほうが強い(マイナーピースのほうが中盤では価値が高い)、というのは有名ですが、この局面のQ対B+B+P+Pはどうなんでしょうか。棋風によってどちらを持ちたいか変わりそうな局面だと思います。(将棋でいうところの「イメ読み」のような企画に向いている局面でしょう。)

17. a4 Bf6 18. Qg3 Nb4 19. a5 Nc8 20. exf5

Bronsteinはここまで「黒のプランは成功した」と書いており、次の手が悪手であるとしています(前掲書)。

20... Bxf5?

ただし、この手は自然な手なので悪手とは見えづらいです。20... Ne7!であればドロー(前掲書)で、コンピュータの解析もその分析を支持しています。

この局面での黒のプランとしては、Ne7から白のセンターポーンを取り、センターポーンの圧力で白を押しつぶすプランが考えられるところです。終盤になればクイーンがマイナーピースを凌駕するため、黒は中盤で勝たないといけません。

そのため、中盤において威力を発揮するセンターのパスポーンを作るというプランになります。

21. Ra4!

そのため、d5のポーンを取られる前にb4のナイトを追うこの手が好手になります。Bronsteinは「この手を見落とした」と認めています(前掲書)。

21... Nd3 22. Rc4 Nc5?

コンピュータは悪手判定をし、22... Rb8を推奨します(c7のポーンを取らせてBd8からBxa5としてポーンを取り返す、Rb4のときにb7ポーンを取らせないという狙い)。

23. Ne4 Na6 24. Nxf6+ Rxf6 25. f4 e4 26. Nc3 Ne7 27. Re1 Raf8

不利ながらも嫌味をつけていく差し回しは参考になります。

メジャーピースを活用する、オープンファイルにルークを重ねる、開いたラインを活用するというのがよくある嫌味のつけ方です。

28. b4 d6 29. Nxe4 Bxe4+ 30. Rcxe4 Nxd5

Spasskyは攻撃的なプレーヤーと思われることも多いですが、手堅い指し回しにも目を見張るものがあります。有利になった際に駒交換を進めていくのはCapablancaの趣きがあります。

31. Re8 Nac7 32. Rxf8+ Kxf8 33. Kh1 Rf5 34. Qh4 Nf6 35. Qf2 Nb5 36. Qe2 Nd5

ここからの指し回しが美しいです。

37. a6! bxa6 38. Qe8+! Kg7 39. Qxc6

 黒の最後の望みとしては、駒同士を連携させて絶対に負けない形を作ることしかありません。

cポーンを取ってしまえば、それも困難になります。以下は手順のみで。

39... Kh6 40. Qxa6 Nxb4 41. Qb7 Nd3 42. Re7 Nxf4 43. Rxh7+ Kg5 44. Qe7+ Kg4 45. Qe3 Kg5 46. h4+ Kg4 47. Kh2 Nh5 48. Rh6 1-0

 Bronsteinの独創性、序盤から形にとらわれず読みの力で勝負する棋風と、Spasskyの対応力が光る一局でした。