Najdorf 6... e6型を考える(7)

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Najdorf 6...e6型の最終回です。今回は、最近のゲームをいくつか見ていくことで、定跡の変遷をたどる本シリーズの締めとしたいと思います。

Game 1: Morozevich A. - Vachier-Lagrave, M. (2009)

まずは、Mr.Najdorfとの呼び声高いフランスのGM、Maxime Vachier-Lagrave(MVL)のゲームより。

MVLは1. e4に対してほぼいつも1... c5で返し、さらにオープンシシリアンに対してはNajdorfを指すことで有名です。結果として、MVLの全ゲームのうち1割弱がNajdorfです。

2009年、白Morozevichに対するMVLのゲームより。Biel GMトーナメントの8Rという大一番です。

1. e4 c5 2. Nf3 d6 3. d4 cxd4 4. Nxd4 Nf6 5. Nc3 a6 6. f3 e6 7. Be3 b5 8. Qd2
Nbd7 9. g4

9... h6

MVLは9... Nb6も指しています。9...h6は、本シリーズ第2回Ⅱ-1のラインで取り上げた形に近い形になる手です。

10. O-O-O b4 11. Nce2 Qc7 12. h4 d5

タイミングよく...d5を突け、黒悪くありません。

13. Nf4 e5 14. Nfe6!

並べてみるとわかりますが、何もないマスにナイトをサクリファイスしています。

14... fxe6 15. Nxe6 Qa5 16. exd5!

...Qxa2を受けない!これでe6にナイトを固定します。

16... Qxa2 17. Qd3 Kf7 18. g5 Nxd5!

これでe6のナイトを取り切ってしまえば白には駒損だけが残りますが……

19. Bh3 Nxe3 20. Nd8+!

2ピースダウンで戦います。

20... Ke7 21. Nc6+ Kf7 22. g6+ Kg8 23. Qxe3

霧が晴れました。黒はピースアップですが、両方のルークが働いておらず、クイーンも変な位置にいて、キングも安全ではありません。加えてdファイルは白が支配しており、ピース損の代償は十分ある局面でしょう。

23...Bc5 24. Qe4 Nf8 25. Rd8 Bb7 26. Rxa8 Bxa8 27. h5 Rh7!!

キングの逃げ道を塞いでいるルークより、g6のポーンのほうが価値が高いという判断はすごいと思います。

確かに今のままだと、黒のルークは動けず、ナイトもバックランクメイトを防ぐために動きが制限されています。加えて白マスを守らないとQc4+等からのメイトがあるため、クイーンとビショップの動きは気を付けないといけません。結果として、黒が自由に使えるのは黒マスビショップのみとなります。

それに比べればルークを1つ取られてエクスチェンジダウンになってもダブルビショップで戦えるという判断でしょう。

28. Re1!

白も取りません。

28... Bxc6 29. Qxc6 Bd4 30. Kd2 Qxb2 31. Qc4+ Kh8! 32. Kd3 a5

黒はここから、白の黒マスの弱さにつけ込んでいきます。31... Kh8!でh7取りがチェックにならないのも大きなポイントで、h7を取るとその瞬間に白がチェックメイトされる、という筋もいくつも出てきます。

33. Qc8 Qa3+ 34. Ke4 b3 35. cxb3 a4 36. Rb1 Qb4 37. Qc4 Qb7+ 38. Qd5 Qb4 39. Qc4 Qd2 40. Bg4
a3 41. Qf7 Qc2+ 42. Kd5 Qc5+ 43. Ke4 a2 44. Rc1 a1=Q 45. Rxc5 Bxc5

クイーンが世代交代しました。f8のナイトの位置が素晴らしく、メイトスレットがあります。

46. Qd5 Qe1+ 47. Kd3 Qd1+ 48. Kc4 Qxd5+ 49. Kxd5 Ba3 50. Bf5 Kg8 51. Kxe5 Rh8 52. Kd5 Nh7
53. gxh7+ Kf7 54. Bg6+ Kf6 55. f4 Bc1 56. f5 Bd2 57. Kd6 Be1 58. Kd7 Bb4 59. Kc7 Ke5 60. Kd7 Ba3 61. Kc6 Kd4 62. Kc7 Kc3 63. Kd7 Kb4 64. Kd6 Kxb3+ 65. Kd5 Bb2 66. Kd6 Bf6 67. Kc5 Kc3 68. Kd6 Kd4 69. Kc6 Rd8 70. Kb6 Kd5 71. Kc7 Kc5 72. Bf7 g5 73. fxg6 Rd6 74. Be8 Be5 75. Kb7 Rb6+ 76. Kc8 Kd6 0-1

Game 2: Leko, P. - Shirov, A. (2012)

さて、MVLはEnglish Attack(6... Be3)に対しては6... Ng4, 6... e5, 6...e6どれも指します。ただし、2013年以降はもっぱら6...e6をやめ、6...Ng4か6...e5に専念しているようです。

調べてみると、どうやら6...e6の、8. Qd2 Nbd7 9. g4 Nb6のラインで、現在では10. O-O-Oではなく10. a4とする手が強力と見られているようです。黒がキャスリングを遅らせるのに対抗して白もキャスリングを遅らせ、場合によってはO-Oまで見せながら、黒のクイーンサイドの攻勢を受け流します。

私が参考にしているEmms本が出た後(2004年以降)に流行りだしたラインなので、載っていないのも納得ですが、このラインについては改めて検証する必要があるでしょう。

黒も勝てないラインではなく、Shirovが黒番を持って勝っているゲームがあるので、それをご紹介します。

1. e4 c5 2. Nf3 d6 3. d4 cxd4 4. Nxd4 Nf6 5. Nc3 a6 6. Be3 e6 7. f3 b5 8. Qd2
Nbd7 9. g4 Nb6 10. a4

これが10. O-O-Oに代わって増えている手です。キャスリングして黒のアタックを正面から受けるよりも、いったん黒のクイーンサイドの動きを制限したうえでセンターから反撃するというプランです。黒は、次の手にあるように...Nc4としながらbファイルを開けて戦うようです。

10... Nc4 11. Bxc4 bxc4 12. a5 Bb7 13. Na4 d5

c4のポーンを支えます。この形はbファイルが開くので、ルークはbファイルに回します。

14. g5 Nd7 15. O-O-O

やや危険なようにも見えます。白には驚くことに、O-O!というプランもあります。

15... dxe4 16. f4 Rb8 17. Qc3 Qe7 18. Nf5!

Najdorfの白番はナイトサクリファイスで主導権を白が握るゲームが多いですね。

18... exf5 19. Rxd7 Qxd7 20. Qe5+ Be7 21. Qxb8+ Qc8 22. Qe5 f6 23. gxf6 gxf6 24. Qd4 Qc6 25. Nc5 Bxc5 26. Qxc5 Qxc5 27. Bxc5 Rg8 28. Rg1 Rg4 29. Rxg4 fxg4

異色ビショップエンディングになりましたが、ここからのShirovの差し回しは参考になります。有名なTopalov-Shirov(1998)を思わせる指し回しです。黒はgファイルにパスポーンを作れることと、eファイルにパスポーンがあることを使って戦いますが、異色ビショップであるため、なるべく離れたファイルにパスポーンを作りたい形です。

30. Kd2 Kd7 31. Bf2 Kc6 32. Ke3 Kd5 33. Bh4 f5 34. Bf6 Bc6 35. b4 cxb3 36. cxb3 h5

...h4から...g3を見せることで、キングとビショップの動きを制限します。加えて黒キングはクイーンサイドに向かい、弱いbポーンを狙いに行きます。白ビショップはbポーンを守り、黒キングの侵入を防ぐ必要があるうえに、...h4を止めないといけないため、両方の仕事ができるマス(e7)にい続けなければいけません。

加えて白キングは、あまりクイーンサイドに寄りすぎると黒から...e3!があります。

また、b4と突いてしまうと黒キングがクイーンサイドの白マスから侵入されるのを防ぐにはクイーンサイドに白キングが行くしかなく、キングサイドにコネクテッドパスポーンを作られて負けるため、b4を突くと黒キングが侵入できます。

白はいずれ、指せる手がなくなります。

37. Be7 Be8 38. Kd2 Kd4 39. Bf6+ Kc5 40. Kc3 Bb5 41. Be7+ Kd5 42. Kd2 Bd3 43. Kc3 Bf1 44. Kd2 Kd4 45. Bf6+ Kc5 46. Be7+ Kb5 47. b4 Kc4 48. Ke1 Bd3 49. Kd2 Kb3 50. Ke3 Kc3

白はツークツワンクになりました。

51. Bh4 Kxb4

51. Bf8等でb4のポーンを守るのも、51... h4 52. b5 g3 53. h3 Bxb5等で黒勝ちです。

52. Be1+ Kc5 53. Bh4 Bb5 54. Be1 Bd7 55. Bh4 Kb5 56. Be1 h4!

これで、当初の目的であった「離れたパスポーン(aファイル、eファイル)」を作れました。

57. Bxh4 Kxa5 58. Kd4 Kb5 59. Be7 a5 60. Kc3 Be6 61. Kd4 Bc4 62. Bh4 Bf1 63. Be7 Ka4 64. Kc3 e3 65. Bh4 Ka3 66. Kc2 a4 67. Be7+ Ka2 68. Bc5 e2 69. Bb4 a3 0-1

おわりに

ブログで一つの序盤定跡に対してシリーズで書くということは、思った以上に大変な作業でした。参考文献を読みつつ、体系立てて説明するにはどのように書くのがベストか、必要なラインと不要なラインは何か、本ブログの想定読者である中級者の方にわかりやすい文章を書くには何が必要か、を考えながら書く必要があったためです。

また、間違えがあってはいけないので、本と最新のエンジンで検証しながら文を記載しています。細心の注意は払っていますが、もし間違いに気づいた方がいれば、ご指摘いただけると幸いです。

しかし、大変さ以上に、自分の知識を体系化するという作業は楽しく、また実りあるものになったと思います。本ブログを書く中で、今までにはなかった考え方をいくつも知ることができました。

Najdorfは非常に複雑でチェスの面白さが詰まったラインだと思います。私自身も、Najdorfを指す時には中盤にしっかりと時間を使い、どのような手があるか、どのようなプランがあるかを直感と読みにともに頼りながら考え、指しています。

もし、面白い定跡を見つけたら、またシリーズものを書くかもしれません。また、本ブログのもう一つのテーマである自戦記も、引き続き書いていきたいと思います。

最後に、本シリーズの読者の皆様に感謝の言葉を述べ、本シリーズの締めとさせていただきたいと思います。

ありがとうございました。