
ロンドン+グリークギフト=さいつよ
カムスキーによる秀逸なグリークギフトの棋譜について解説します。ブログの一番最後に棋譜を貼っときます。Kamsky-Shanklandの棋譜です。
1. d4 Nf6 2. Bf4
ロンドンシステムというやつです。アイデアとして白はc1Bをポーンチェインの外に出してから、c3-d4-e3構造を目指すというものです。
2...d5 3.e3 e6 4. Nd2 c5 5. c3 Nc6 6. Ngf3 Bd6
ここでBg3と引くのが一般的というのは覚えておきましょう。黒から..Bxf4を許す変化もありますが少しポーンが散らかる形になります。白がBg3と引いた時に黒から...Bxg3?とするのは白のh1Rが働くようになるため疑問手になります。そこで黒からB交換をすることはあまりないのですが、このB同士が睨みあうテンションは白にとって有利に働きます。
7. Bg3 7....O-O 8. Bd3
モダンな指し回しとして8.Bb5という指し方もありますが基本に忠実なBd3をまず覚えましょう。Bd3という手を見たらBxh7からのNg5というグリークギフト系の攻撃は両者常に考えましょう。
8...Qe7 9. Ne5
このNe5という手が非常に重要です。黒は先ほどの...Qe7という手でe5ブレイクのスレットを作っていました。e5ブレイクが達成されればc8Bがアクティブになり、センターも黒のほうがコントロールしているので黒良しの形になります。e5に白ナイトを置くことで物理的にe5ブレイクを封じているわけです。黒がe5ブレイクを行いたければf6Nを移動させてf6-e5しかないのですが3手かかるうえにかなりリスキーになります。またd4d5系の弱点としてe5マスを白が抑えられるというのがあげられます。d4d6系ですとe5をd6ポーンがコントロールしているのでe5マスを黒が抑えられます。
9...Nd7
9...Bxe5で白にダブルポーン作らせてe5ポーンを黒が回収すれば黒良しなんじゃないの?という発想が通用するときもありますが、この局面だとそんなにうまくいきません。黒悪いとまでは言いませんが白にダブルBができ、e5に白ポーンがしばらくの間突き刺さるので白良しでしょう。ダブルBのおかげで白のダブルポーンにもメリットが強く出ます。
10. Nxd7 Bxd7?
この黒がd7ナイトをBで取った手が最も自然ですが悪手です。ネタバレにはなりますが参考変化を書きます。グリークギフトによる強制手順によって変化するのですが最後の最後d7Bが浮いちゃう変化があるので...Bxd7は悪手ということでした。
11. Bxd6 Qxd6 12. dxc5 Qxc5 13. Bxh7+ Kxh7 14. Qh5+ Kg8 15. Ne4
素晴らしい一手です。グリークギフトは通常f3にナイトがいないと不可能な攻め筋ですが、ナイトのd2-e4-g5マヌーバーによって今回は達成します。ちょうど黒Qの位置が最悪でピンになるのですね。
15...Qc4 16. Ng5 Rfd8
なるほど白はドロー以上は取れる形だが白勝ちなの?ピース切ってるが強制メイトはないよね?という形にも見えますがこれは完全に白優勢です。チェスにおいて攻め駒からKの防御駒を引いて2以上になれば十分メイティングアタックになりえます。白の攻め駒はナイトとQ 潜在的にa1R。黒キングを上手に守ってくれる防御駒は今0です。黒は雑に防御駒を黒Kに呼び寄せると逆に壁になるため難しい状態ですね。
17. Qxf7+ Kh8 18. Qh5+ Kg8 19. Rd1
実に実にクールな一手です。白は強制手順でテンポを取りつつg7を落とすことはできるのですが、黒キングがセンターからQサイドに逃げられる可能性があります。そこで最初にdファイルから攻め味を見せて白はQh7から相手をセンターに追いやってRxd5などの手筋でメイトする狙いです。
19... e5 20. Qf7+ Kh8 21. e4
素敵な一手ですね。先ほどRd1と回したのと連動しており、黒キングがd6に来た場合白はRxd5とチェックで攻撃できます。そしてe4ポーンを黒がポーンで取ると黒Qが落ちるので取れません。
21...Ne7
クリエイティブで素晴らしい手だと思います。ピースをタダで捨てるというのは非常に考えにくいのですが、黒は駒得状態でしたので駒得を返して主導権を奪い返すというのは一つのアイデア。また白は駒を返されると悩むものです。さっきまでメイティングアタックを狙っていたが駒損から回復したし、エンド勝負にするべきか?それともメイティングプラン続行か?と。この...Ne7は素晴らしい手だと思いますが、白が勝勢なので黒が素晴らしい手を放ったところで、白勝勢には変わりないです。
22. Qxe7 Bb5
Nをe7にタダ捨てることによって白Qをf7という絶好のスポットからわずかにそらし、黒のBb5が可能になりましたね。Bb5は白へのメイトスレットとキャスリングを防ぐ非常に良い位置です。ただし白はRd1-d2によって攻防に利かせることができます。Rをa1からd1に持ってくるだけで盤面ってのは見違えるものです。
23. Rd2 Qxa2 24. Qf7 Qa1+ 25. Rd1 Qxb2
黒はb2を取ったら負けることは重々承知でしょうが、ほかに何指せばいいんだっていう局面ですね。
26. Qh5+ Kg8 27. Qh7+ Kf8 28. Qh8+ Ke7 29. Qxg7+ Kd6 30. Rxd5+
19.Rd1はこのためにあったのだという手ですね。具体的に10手先を計算しろというわけじゃありません。(というかこれは人間には不可能でしょう)ただRd1とやると将来的に役立ちそうだな、センターファイルやオープンファイルになりそうな場所にもっていくのはいい手だよねってことでRd1を考えようというお話です。チェス初級者~中級者くらいにありがちなのは、マイナーピースとポーンの構造は綺麗だがルークが眠っているということが多いです。ルークの活用ファイルを考えるだけで一歩ランクアップできると思います。
30...Kc6 31. Qf6+ 1-0
どうしようもなく投了。ありがとうございました。