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書評

tmhasfun
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書評は通常上級者の人が書くけど、初級者から見た棋書の書評というのもあって良いと思って、長距離バスでの移動中、暇にあかせて書いてみました。

これまで自分が読んだ本・読んでいる本(入門~中級レベル)を大体読んだら良いと思われる順番に並べて書評。参考までにタイトルの後ろの括弧内に自分が購入した日付を入れました。

文章中のレベルの定義はChess.comでのレーティングがおおよそ
 入門(~1199)
 初級(1200~1399)
 中級(1400~1799)
 上級(1800~) 


1.
渡井美代子「はじめてのチェス」(2009.03)

日本チェス協会会長代行の著者による入門書。駒の動かし方、序盤・中盤・終盤の指し方、棋譜の鑑賞、チェックメイトの問題などがコンパクトにまとめられている。自分がこの本を読んだのはある程度チェスの勉強をした後だったのでそれほど目新しい記述はなかったが、わかりやすくて良いと思う。入門者がチェスの概要をつかむには◎。

 

2.
James Eade「The Chess Player's Bible」(2008.12)

「Chess for Dummies」の著者による入門書。同じ著者とは思えないほど内容・構成が異なる。個人的にはこの「The Chess Player's Bible」の方が断然良いと思う。駒の動かし方から、オープニング、タクティクス、ポーンストラクチャー、終盤など幅広く書かれている。チェスというゲームの概要をつかむのには非常に良い。洋書だが図解でわかりやすく説明してあり、文章が非常に少ないので英語が苦手でも抵抗なく読める。容易に通読できた。それぞれの内容についてほんの触りだけ書かれているが、この本に書かれている内容を本当に身に着けていれば少なくとも中級者だと思う。隠れた名著。また、この本の最後に更に勉強するためのおすすめの棋書としてのちに述べる「Complete Idiot's Guide to Chess」、Lev Alburt の本、Silmanの本が挙げられている。いずれも良書で後の棋書選定に役立った。

 

3.
東公平「ヒガシコウヘイのチェス入門」(2009.03)

将棋の観戦記者としても有名な著者による定跡集。様々な定跡が紹介されている。定跡が古く、細かなラインが書かれているわけでもないが、どのような種類のオープニングがあるか全く知らないというようなレベルの時にどのようなオープニングがあるかを大雑把に見るのに適している。一手一手局面図が描かれているので、入門者でも手を追いかけるのが容易。超軽妙な筆致も◯。

 

4.
Fischer et al.「Bobby Fischer Teaches Chess」(2009.06)

チェスを指さない人でも知っているであろう第11代世界チャンピオン、ボビー・フィッシャーによる入門書。大雑把に言えばバックランクメイトを中心としたチェックメイト問題集。非常に初歩的なメイティングパターンだけを扱っているが、本の評価は非常に高い。フィッシャーがどの程度関わったかは分からないが、フィッシャーが著者になっている数少ない棋書であるためかもしれない。洋書だが非常に平易な英語で書かれており、問題集なので文章量も少ない。簡単に通読できる。自分は数回読み返した。日本語版「ボビー・フィッシャーのチェス入門」もある。

フィッシャーはその数奇な人生でも知られており、その生涯はフランク・プレイディー著「完全なるチェス 天才ボビー・フィッシャーの生涯」に詳しい。

 

5.
ポルガー「Chess: 5334 Problems, Combinations and Games」(2009.03)

有名なポルガー三姉妹の父親によるメイティング問題、コンビネーション集。1~3手詰め問題集として有名だが、個人的には本の後ろの方に掲載されているCombinations、エンドゲームの問題も秀逸だと思う。非常に分厚く、通称「電話帳」として知られている。無人島に1冊チェスの本を持って行くのであればこの本だろう。自分は現在800近く解いた。

 

6.
Wolff「Complete Idiot's Guide to Chess」(2009.06)

2度の全米チャンピオンに輝き、現世界チャンピオンのアーナンドのセコンドも務めたことがある著者による入門書。オープニング、ポジション、終盤などの基本的な概念が平易な英語で説明されている。コンピューターに勝つにはどうしたら良いか、歴代チャンピオンの略歴などの読み物的な章も面白い。自分は2回通読。非常に初歩的ではあるが重要なことが書かれており、得るものが多い。オープニングやタクティクス、ポジション、エンドゲームなどを細かく勉強する前に必ず一度は読んだほうが良いと思う名著。

「Complete Idiot's Guide to Chess」と同じレベルの入門書としては、評価が高いSeirawan 「Play Winning Chess」もある。Force, Space, Timeなどの基本的な考え方について書かれている。こちらは本屋で立ち読みしてみたが、将棋などでこれらの概念を身に着けていれば特に買ってまで読む必要は無いと思う。ただし、初級者向けに書かれた良書であることに違いはない。

「Complete Idiot's Guide to Chess」と「Play Winning Chess」、どちらを買うか決めるために本屋で立ち読みして比較したが、「Play Winning Chess」の内容はある程度「Complete Idiot's Guide to Chess」に含まれているように思ったので自分は「Complete Idiot's Guide to Chess」を買った。

 

7.
チェルネフ「理詰めのチェスLogical Chess: Move by Move 」(2009.04)

特に初級者向けの棋書の著者として知られるチェルネフによるMove by Moveの本。本当に1手1手細かく説明されている。マスターの対局を通して、どのように指すべきか、どのように指してはいけないかが述べられている。この本を通じて、オープニングでは駒を展開する、オープニングでは同じ駒を二度動かすな、キャスリングしたキングの前のポーンを動かすななど初級者向けの原則、指し方の基本的な部分を学ぶことができる。今でも読み返している。名著中の名著。

 

8.
ホロヴィッツ、ラインフェルド「チェス上達の手引き」(2013.07)

New York Timesの元チェスコラムニストなどとして有名なホロヴィッツと数多くの初級者向けの棋書の著者として有名なラインフェルドによるMove by Move本。チェルネフのLogical chessのように本当に1手1手解説されているわけではないが、かなり細かく初級者向けの説明がなされている。初級者のうちは棋力差のある対局を参考にするのが良いといわれるが、そのためにはうってつけの棋書。収録されている対局数は14局だけなので簡単に通読できる。収録数は少ないが、様々なテーマを扱っており、レベルも前半から後半に行くに連れて徐々に高くなっていき、レベルアップを実感できるのが◎。チェルネフの「理詰めのチェス」と同様、初級者にとっては得るものが多いと思う。

 

9. 
Seirawan「Winning Chess Tactics」(2009.07)

4度の全米チャンピオンに輝いた著者によるタクティクス本。一番最初に読むタクティクスの本として非常に評価が高い。著者によるその他のWinning Chessシリーズも非常に評価が高い。将棋のタクティクスの基礎を知っていれば難なく読める(前半部分は読み飛ばして良いかもしれない)。後半部分はまだ読んでいない。

 

10.
Lev Alburt 「Chess Training Pocket Book: 300 Most Important Positions and Ideas」(2010.07)

3度のウクライナチャンピオン、3度の全米チャンピオンに輝いた著者による問題集。厳選された300の局面のタクティクス問題が収められている。終盤の問題も収録されている。「中級者を目指す初級者」レベルと思われる。繰り返し読みたい良書。前述の「Winning Chess Tactics」の後にいきなりこの本に取り組むのにはギャップがあるが、そのギャップはオンラインのタクティクストレーナーのようなもので埋めれば良いように思う。Lev Alburtの本はどれも要点がコンパクトにまとめられており、効率的に勉強したい人にはオススメ。

様々なテーマの300の問題がランダムに配列されてあるが、特定のテーマについてトレーニングしたいときは巻末に掲載されているかなり細かいテーマのIndex(Discovered attack, Mateなどなど)を利用することができ、便利。

 

11.
Silman「Silman's Complete Endgame Course: From Beginner to Master」(2009.05)

著名なチェスライターSilmanによるエンドゲームの棋書。非常に評価が高い。それぞれの棋力に応じたエンドゲームが学べるようになっている。自分のレベルのところまで読めばあとは読まずに、先にタクティクスなどで棋力を上げろというスタイル。

 

12.
アヴェルバッハ「チェス終盤の基礎知識」(2010.10)

著者はソ連・ロシアの棋士。タイトル通り必要な終盤の基礎知識がコンパクトにまとめられている。古典的名著。

 

13.
Seirawan「Winning Chess Endings」(2009.10)

先に紹介した「Winning Chess Tactics」と同じシリーズのエンディング本。良書ではあるが前に紹介したSilmanとアヴェルバッハによるエンディング本2冊があれば必要ないかもしれない。

 

14.
Paul Van Der Sterren「FCO - Fundamental Chess Openings 」(2010.03)

2度のオランダチャンピオンに輝いた著者による定跡集。「The Chess Player's Bible」や「ヒガシコウヘイのチェス入門」に載っているオープニングのラインでは物足りなくなったらこの本を読めば良いと思う。いわゆるAll in Oneで多くの定跡が程よい量のラインがそれぞれの定跡のアイディア、狙いなどと共に解説されている。個人的にはオープニングよりもエンディングやタクティクス、ミドルゲームの勉強を先にして、中級者になるまでは個別のオープニングの細かな勉強はしなくて良いと思っている。中級者になるまでははこの定跡集で十分だと思う。著名なチェスライターSilmanもこの定跡集を薦めいている( http://www.chess.com/article/view/creating-a-study-program )。Silmanが自分の著作以外のものを薦めるのはめずらしい???

類書にModern Chess Openings (MCO)があるが、それぞれのオープニングのアイディアの説明などがほとんど無いので、初級者にはFCOの方が良いと思う。

 

15.
チェルネフ「いちばん学べる名局集」(2012.06)

先に紹介した「Logical Chess」の著者によるInstructiveな内容の棋書。マスターの対局を通して様々なことが学べるようになっている。自分は現在、棋譜並べのためには主にこの本を用いている。多くの人から評価されている名著中の名著。

 

16. 
渡辺暁「渡辺暁のチェス講義」(2012.07)

日本人FMの著者による初級者~中級者向けの棋書。第3代世界チャンピオン、カパブランカによるChess Fundamentals と同様エンディングの説明から始まるところが面白い。エンディングが重要だという読者へのメッセージといえる。後半はオープニングとミドルゲームの指し方、プランの立て方が解説されている。非常にわかりやすく、まさに講義を受けているような感じになる文体も◎。


17.
パッハマン「チェス戦略大全 I -駒の活用法」(2009.03)
18.
パッハマン「チェス戦略大全 II -ポーンの指し方とセンター」(2010.10)

中級者向けのこの本について初級者の自分がこまかく書評を書くのは適切でないように思うので手短に。

実戦例を用いて第1巻はそれぞれの駒の活用の仕方について、第2巻はポーンの取り扱い方とセンターについての説明がなされている(サブタイトルのまんま・・・(笑))。

中級者向けと思われるが、初級者でも得るものはあると思う。
何よりもこのレベルの本が日本語で読めるというのが嬉しい。

 

今後読む予定の本:

19.
Stean「Simple Chess」(2013.08)

イギリス人GMの著者によるストラテジー本。非常にコンパクトにわかりやすく書かれている。非常に評価されている本だが、もっと評価されて良いと思う。中級者向けのストラテジー本としてはSilman「The Amateur's Mind」が有名だが、Silmanの文章はやや冗長で好き嫌いがわかれると思う。自分には少し合わないような気がするのでこちらの「Simple Chess」を読む予定


20.
Lev Alburt「The King in Jeopardy」 (2013.08)

先に紹介した「Chess Training Pocket Book」の著者による、キングへの攻撃の仕方を解説した本。キングへの攻撃に関する本としてはVukovic「The Art of Attack in Chess」が有名だが中級~上級者向けなので、まずはこの「The King in Jeopardy」 で勉強する予定。

 

とりあえず上に紹介したものを読んでおけば少なくとも中級者にはなれるような気がする。もちろん全部読まずとも実際の対局、ネット上の情報、SNSなどを利用して勉強することでも中級者になれると思う。

 

番外編1(棋譜鑑賞):

21.
Tal「Tal-Botvinnik 1960」(2010.06)

第8代世界チャンピオンTalによる名著。棋譜とともに1手1手考慮時間が書かれているのがユニーク。自分はどちらかと言うとBotvinnikのファンでカロ・カンの局が見たくて購入した。初級者にとってはレベルが高く、初級者の段階では「棋譜並べ」で勉強すると言うよりは「棋譜鑑賞」で純粋に名局を楽しむという感じ。

  

22.
Nunn et al.「The Mammoth Book of the World's Greatest Chess Games」(2011.05)

多くの著作があるイギリス人棋士による名局集。1834年~2010年までの厳選された名局125試合が収録されている。初級者の段階では勉強すると言うよりは純粋に名局を鑑賞する感じ。

多くのラインと共に解説が書かれており、そのあとで「これでよし/だめ」と言われても初級者にはなぜ良いのか、なぜ悪いのかわかりにくい時もある。また多くの局面図が掲載されているが、挿入位置が不自然なときがあるように思う(必要ないところにあって、必要ないところにない時が多々ある)。それぞれのゲームの終わりにこの「このゲームから学べること」が(少し抽象的な書き方ではあるが)箇条書きで3つほど書かれている。

中級者・上級者になると得るものが多くあるだろうが、初級者の段階では名局中の名局よりもチェルネフの「いちばん学べる名局集」などのようなInstructiveな棋譜集を読むのが良いように思う。

若干ネガティブな書評になってしまったが、多少瑕疵があっても良い本であることに変わりはなく、この値段でこのボリュームはお買い得。

  

23.
フィッシャー「ボビー・フィッシャー 魂の60局」(2011.06)

名著。以上。

(ただし、こちらも上級者向けで初級者にとっては純粋に名局を鑑賞する感じ。)

 

番外編2(思い出の一冊): 

24.
ソコリスキー「百万人のチェス」 (1992.03 再度手にしたのは2010.07)

ソコルスキー(Polish)オープニング(1.b4)で知られる著者による入門書。自分が一番最初に購入した棋書。駒の動かし方から、オープニング、中盤、エンディングの指し方がひと通り述べられている。インターネットもなく、洋書も手に入りにくかった当時としては貴重な日本語棋書だったかもしれないが、今となっては洋書・和書共により良い棋書が手に入るようになった。オープニングの章では入門書には通常紹介されていないソコルスキーオープニングが紹介されている。自分もこの本の影響で一時期1.b4を指した。