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Nimzo-Indian Defense

Nimzo-Indian Defense

metasta
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 20世紀前半もっとも影響力のあったチェスプレイヤー、アロン・ニムゾヴィッチの名を冠したニムゾ・インディアン・ディフェンスについて。

1.d4 Nf6

 1... d5 と並び、現代のトッププレイヤーに最も好まれる応手。中央のポーンの出方を決めるより先に e4 のマスを支配する目的。

 ここで白の 2 手目は思いのほか限られる。2.Nc3 から e2-e4 を狙う手は一見自然だが、その狙いは黒 2...d5 によって容易に崩され、さらに c ポーンを動かすこともできなくなる。クイーンズ・ポーン・ゲーム(1.d4 で始まるクイーンズ・ギャンビットやニムゾ)において、クイーンサイドに陣地を拡げられないことは白にとって大失敗だ。そのためここでは別の、白の優位を狙う最も野心的な手が代わりに選ばれる。

2.c4

 d5 のマスを支配する手。黒 2...d5 とされても今度は取れば、取り返されても白には中央ポーンが 1 つ多く残る。この後 b1 のナイトを c ポーンの背後へと展開すれば、d5 の支配をさらに強めることができる。

2...e6

 2...g6 も非常に一般的。

 白の次の手は 3.Nc3, 3.Nf3, 3.g3 のいずれも長年指されてきた有力手。3.Nf3 3.g3 と指せばそれぞれ違ったオープニングとなる。今回は最も一般的な 3.Nc3 の進行を追う。

3.Nc3

 ナイトを展開し、次に e2-e4 で中央に巨大な陣地を築く狙い。

3...Bb4

 この手がニムゾ・インディアン。ナイトをピンし白 e2-e4 を防ぐ手。他の有力手は 3...d5 (クイーンズ・ギャンビット・ディクラインド QGD へ移行)と 3...c5 (ベノニ・ディフェンス)があり、いずれも白 e2-e4 を防いでいる。

 白の 4 手目にはたくさんの可能性がある。4.Qc2, 4.Nf3, 4.Bd2, 4.e3, 4.a3, 4.g3 さらには 4.f3、すべてグランドマスターレベルでも指される手。駒を展開する妥当な方法が何通りもあるので、どれを選ぶかはプレイヤー次第だ。

 のちのち黒は Bxc3 とナイトを取ることが多い。白にダブルポーンを作らせる利点の反面、黒マスビショップを失う欠点もある手だ。その後は白マスビショップをフィアンケットし、d7-d6 から Nbd7 と手堅く展開することが多い。

4.e3

 前述の通りこれは多くの妥当な手のうちの 1 つ。ルービンシュタイン・システムと呼ばれ、20 世紀のチェスの英雄アキーバ・ルービンシュタインの名に由来する。白はこの後 Bd3, Nf3, O-O などと穏健に駒を展開する予定。

4...O-O

 黒は中央の柔軟性を残しつつキャスリングする。

 次の手で白は 5.a3 とする手も考えられる。黒はビショップを退けば白 e2-e3 から中央を広く奪われてしまうため c3 のナイトを取る一手。結果的に白は 2 つのビショップという資産と、c ファイルのダブルポーンという負債とを一度に手にすることになる。これはニムゾでは非常によくみられる進行だが、今回はより基本的な進行を追おう。

5.Bd3

 ビショップを展開し、重要な e4 のマスを支配する。クイーンズ・ポーンで始まるゲームでは、ほぼ全ての戦いが e4 をめぐって起こる。

5...d5

 黒は中央の配備を確立し、e4 の支配を取り戻す。この手以外にも 5...c5 5...b6 といった選択肢がある。

 白は e3-e4 ではポーンを失うだけなので、素朴に駒の展開を続ける。

6.Nf3

 ナイトを展開する。6.Nge2 と展開し c3 のナイトを支える手も有力。

6...c5

 黒は再び中央を攻撃し、互角の進行を目指す。

 いま中央にはポーンによって多くの緊張状態が生じている。通常 d4 から始まるゲームは閉塞的な進行になりがちだが、今回はいつ局面が打開されてもおかしくない状況だ。この緊張状態を最も自分に有利な形で解く方法が見つかるまでは、両者ともに中央の安定を保ちつつ駒の展開を続けることになる。

7.O-O

 白の中央のポーンはどれも適切に守られているため、白はキャスリングを選択する。

7...cxd4

 黒の決断。中央の緊張状態を解放しポーンの交換を始める。ここでは dxc4 も好手で、その場合黒は Qc7, Nc6, e6-e5 と続けて白マスビショップの道を開く。

8.exd4

 白はポーンで取り返し、ビショップの道を開ける。

8...dxc4

 黒はもう一組の中央ポーンも交換し、白の孤立クイーン・ポーン (IQP, Isolated Queen Pawn) を作る。白黒どちらか一方が IQP を持っている状況は数多くのオープニングに登場し、どちらの側にも多くの戦略的・戦術的着想をもたらす。

 今回の形は他の様々なオープニングからも生じうる標準的な IQP の局面である。

9.Bxc4

 IQP の最大の特徴は、他のポーンから孤立しているため他の駒で守らなければならない点にある。IQP を持つ白は防戦一方の進行を避けるため、積極的に指すことでポーンの弱点を補わなければならない。対する黒も、IQP を狙って反撃を繰り出すか、少なくとも自駒で d5 を塞いで妨害し、白の積極的な手を制限しなければならない。IQP の局面については数多くの研究があり、IQP のために書かれた本も存在する。