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naruzoが将棋世界でのカスパロフの記事を紹介するよ。

naruzo
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「将棋世界」1999年8月号

まさか、15年も前の将棋世界の記事をみなさんに紹介する日が来るとは思いませんでした。

(結構長いから、みんな気合いを入れて読もうね♫)

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(インタビュワーは、当時共同通信の石山永一郎氏)

チェスの世界チャンピオン、ガリ・カスパロフ(注:本文では”ガリ”となっている)の自宅は、その高級住宅の一室にあった。

彼の自宅としては、思ったより質素に映った。

~中略~

やがてジャケットとセーターというラフな姿でカスパロフは現れ、笑顔を浮かべて握手をもとめてきた。

~中略~

ディープ・ブルーとの六番勝負の決着がついたあの1997年5月11日の最終局、投了直後のぶ然とした表情しか知らなかった私にとっては別人のようにさえ思えた。

イスに座るなり、カスパロフは達者な英語で饒舌に語り始めた。

話の糸口はやはりディープ・ブルーとの六番勝負になった。

「一局ごとに、違う相手と指しているようだった。これまで戦ったどの相手とも違う棋風だった」 カスパロフはディープ・ブルーをそう評した。

しかし、彼は敗北そのものをまだ受け入れていなかった。

「六番勝負の結果は事実だ。しかし、ディープ・ブルーは本当に完全に自立したコンピュータだったのか。私は深い疑問を持っている」

ニューヨークのマンハッタンで行われた六番勝負は、カスパロフとディープ・ブルーの指示に従って駒を動かすIBM側のスタッフがテーブルを挟んで向き合う形で行われた。 しかし、ディープ・ブルー本体は別室に置かれていた。

「もし、IBMがディープ・ブルーの勝利を歴史に刻もうと言うのであれば、全対局を通じてディープ・ブルーの思考過程を示すプリントアウトされたデータを公開すべきだ。つまり、勝負の最中に人間の関与がなかったかどうかを証明する義務があるはずだ」

~中略~

彼にとってディープ・ブルーとの六番勝負の敗北は、未だに認めがたい屈辱であるようだった。

~中略~

「ディープ・ブルーが決断した指し手を人間がチェックした上で会場に指示を出していたのではないか」 それがカスパロフが今も抱き続けている疑いだ。

ディープ・ブルーの勝利の直後ニューヨーク市場のIBM株価は22%も急騰した。カスパロフはIBMに対し、繰り返し再戦を申し入れているが、IBM側は、「プロジェクトの目的は達した」として再選を拒否、ディープ・ブルーは引退させると表明している。これもカスパロフが不満を抱き続けている理由の一つだ。

「人間の関与さえなければ、少なくともあと5年はコンピュータに負けない自信がある。あの勝負でディープ・ブルーは私に関するすべてのデータを持っていたが、私には相手のデータは全く無かった。次に対戦する機会があれば、今度は違った結果になるはずだ」

カスパロフの表情からは先ほどまでの笑顔はすっかり消えていた。

「コンピュータは一秒間に二億手を読む。しかし、同じ時間で人間はそれを直感で読む。その位に人間の直感と言うものは優れたものなのだ」

「人工知能の性能がいくら向上したとしても、チェスの必勝法が見つかるとは思えない。チェスでは残った駒が五つの時は既にコンピュータは勝ち、負け、引き分けの絶対的な判断ができるようになっている。現在は六つに挑戦しているが、これには時間がさらにかかる。おそらく残り駒七つの局面まではコンピュータが解明するかもしれないが、せいぜいそこまでだろう」

だが、カスパロフ自身も研究やデータ管理に「コンピュータを積極的に利用している」という。

「私は、過去の棋譜等を見て対戦相手の研究はあまりしない方だ。しかし、大会がある時は、必ずコンピュータを持って出掛ける。特定の局面についての研究などに非常に有効だからだ」

チェスの世界では、すでに「アドバンス・チェス」と呼ばれる「コンピュータ持ち込み可」の大会が盛んに行われるようになっている。

「グランドマスター二人が相談しあって最良の手を選ぶという対局をしたら、グランドマスター一人よりも弱くなる。しかし、コンピュータと人間が組むとなると話は全く違う。私に必要なのはせいぜい一秒間に百万手を計算する小さなコンピュータだ。それさえあれば今後も決して私が人工知能に負ける事はないはずだ。ディープ・ブルーが一時間かかる作業を、私は10分で終わらすことができるからだ」

アドバンス・チェスのルールは、双方が同じ機種、同じソフトのコンピュータを横に置き、時々キーボードを叩きながら指し手を進める。カスパロフの場合、どんな局面でコンピュータを使うのか。

「局面の価値計算や判断の確認に使う場合がほとんどだ。例えば、キングの前の駒を動かす危険を考える時、私が危険は無いと判断しても、全ての可能性を私自身がチェックすれば一週間かかるかもしれない。しかし、コンピュータを使えば、私の判断が正しい事が三十分もかからずにわかる」

将棋ソフトのように、コンピュータが威力を発揮するのは終盤なのか。

「いや、違う。圧倒的に中盤だ。中盤を中心に使い、エンドゲームになると誰もがコンピュータのスイッチを切って盤面に集中する。終盤になると、チェスではもう大きなミスは生じないからだ」

カスパロフは人間とコンピュータとの関係について、次のように言った。

「新戦法や新手を発見するのはコンピュータではない。私自身が考え出した新手や新戦法をコンピュータにチェックさせる。21世紀における人間とコンピュータとの関係は、人間の直観力や創造力をコンピュータが検算し、その正しさや過ちを指摘する。そういう関係になるはずだ」

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このあと記事は、記者とカスパロフの将棋対決へと移る。

棋譜はどっか他のブログとかでも見れるはず。

記事内では、将棋を指しているカスパロフに母親のクララさんが、何度も部屋にやってきて、ロシア語で「もうインタビューの時間は終わったでしょう」とカスパロフを叱るように言い、その度にカスパロフは「母さん、もうちょっと待ってくれ」とクララさんを追い返す様子が書いてあるが面白い。

棋譜は実は若干の解説が付いている。

その中でカスパロフのある一言が上手いと思った。

彼は、持ち駒を盤上に使う時、その駒の事をパラシュートと言ったのだ、

なかなかの表現であるね。

ちゃんちゃん♪