ハブる
将棋界の至宝・羽生二冠が黒番でフランス王者とドロった!というNEWSが飛び込んできまして、このことは将棋ファンの間でもかなり話題になったようです。そこで、一体誰得なんだ?とは思うものの! 将棋は判る、羽生さんは好き、チェスなんか知らん!そんな方向けに、にゃんこむすめがこの一局を解説してしまえ!ちょうど良かった。ブログのネタに困っていたし。今回はそんな記事です。
あ、ちなみに前説がものすごく長いので、棋譜解説だけ読みたい、というせっかちなアナタ!前説なんか読みたくない(しくしく…)、そんなアナタはこの記事の最後の方にダッシュで飛んでください。そこに羽生二冠がドロった棋譜の解説があります。
と、いうことで。
そういうわけで。
それはともかく。
一局のチェスは未踏の大海原を行く航海に似ている。 by にゃんこ 2011
←こんな感じで、旅立ちの朝には共に夢を語り合った仲間たちも、あるときは嵐に飲まれ、あるときは病気に苦しみ、またある時は食料危機に陥って空腹で幻覚を見たり、でも見たこともない美しい風景に出会えたり、アドレナリンが沸騰するような大冒険を経験したり。
……色々あって、いつしか残酷なまでに刻は流れ、
やがてこんな感じ→
になります。おい、仲間たちはどこ行った!?死にました。
こんな状態の時に海賊に襲われたりしたら、たまりませんよね。何しろ、死んでいった仲間たちは決して生き返ったりしないんですから。残った我々だけで何とかしなくてはなりません。
←これはチェスの終局図の一例。
白クイーンで黒キングにチェックが掛かっていて、さらに逃げ道は白クイーンと白ビショップに阻まれています。チェスには持ち駒がないので、合い駒も出来ずにこれにてメイト。
クイーンの無慈悲かつ凶悪な強さを感じてください。片方にだけクイーンがある、というのは絶望的なまでの戦力差を生むのです。 女王様っ!もっとぶって!もっとぶって!
…で。
さっきの図→
この局面、将棋ファンの方ならどのように評価されるでしょうか?
ここで白の手番だった場合、こういう狙いがあります。
1.c8=Q
c7(盤面左上の白ポーン)を1つすすめてクイーンプロモーションですね。
仲間がどんどん倒れ、武器も食料も底を尽きかけている時に、おぃ!海賊船が迫ってくるぞーーー! これは、そんな状況なのです。どうだ怖いだろ?
え?海賊船だとイマイチ萌えないから美少女で説明しろって?
そうですか。じゃぁ別の喩えをいたしましょう。
ポーンがクイーンになるというのは、つまり
← アコ が
キュアミューズ →
になるということです。つまびくは女神の調べです。かわいいですね。しかしこのかわいさの演出は、ちょっとあざといと思うんですよ。まぁ、それは本稿で扱うテーマではないので、ヒマがあったらTwitterの方で呟きたいと思います。
さて。
両軍、矢折れ刀尽きた状況の時にいきなりキュアミューズが現れたら可愛すぎて嬉しい……じゃぁなかった、戦力バランスが一気に崩壊してしまいます。片方だけ突然プリキュアが仲間になるなんて!聞いてないよ!
チェスではこのように、キングハントを目指すのではなくクイーンの戴冠を目指すことが即勝ちに繋がるという局面がよく現れます。盤面にキングとポーンのみが残り、ポーンのクイーンプロモーションを目指す終盤戦=「ポーンエンディング」は、チェス終盤の基本中の基本でもあります。
いいですか?上の図(プリキュアの絵じゃなくてその上)は「駒が少なくなってつまらない図」などでは決してなく
「もうすぐクイーンが降臨しそうで恐ろしく緊張感があふれている。しかもクイーンがキュアミューズだったりしたら萌え死ぬな、おい。の図」なのです。
駒がだんだん少なくなっていくからつまらないではなく「戦力が少なくなるからこそ発生する終盤の緊張感」というものがチェスにあるのだと、まずそれをご理解ください。
さて。そろそろ羽生さんの話を始めましょうか(遅っ
羽生さんがチェスのつおい人と(しかも羽生さんが黒番で)ドロったというのは、すごい事です。相手も強いし。聞けば相手は世界でもTOP30の方だとか。人口70億人時代のTOP30ですよ!いやはや、全く。いやチェス人口が何人だか知りませんけど。
ちなみに、(決してチェスの専門家ではない)羽生さんでもチェスの強豪相手に引き分けるんだから、きっとチェスは引き分けになりやすいゲームなんだな…と思うのは半分は当たってますが半分は的外れです。
そもそも、チェスではへたくそな人はドローに出来ません(どーんっ!)
にゃんこむすめはchess.com で現在、R1700点台で指してますが、このクラス以下の人たちの戦績を見ると、ドロー率5ー8%以下がほとんどです。ちなみににゃんこは11%です。強い人は50%近くになる人もいらっしゃいますので、11%でも少ないです。そんな簡単にドローになんかならないのです。
ドローのゲームは「互角の状態がずっと続いてドロー」というパターンもありますが、一方で、やや不利な側に「ドローになりやすい局面に誘導する」テクニックが求められる、というケースも多々あります。ドローが少ないレベルのチェスとは、要するにドローに出来る展開があるのに、それが出来ずに玉砕してるだけ、ということでもあるわけです。
もう少しドロー談義を続けます。
ある局面で、そこから3とおりの展開にする選択権がアナタにあったとします。
Aコース:10局指せば5勝5敗。そんな感じの展開になりそう。
Bコース:10局指せば3勝3敗4引分。という感じがする。
Cコース:10局指せば1勝9引分。そういう予感がする。
どのコースを選びますか?
ちなみにトーナメントに出場すれば勝ち=1点。負け=0点。引分=0.5点 です。
勝つ確率も高いけど負ける確率も高い展開か、負ける確率はほとんどないけど、ほとんど引分け確実な展開。ど、れ、に、し、よ、う、か、な?
ちなみににゃんこの場合、相手のRが自分より1点でも高ければCコース一択です。というか黒番だったらCコース一択です。いや、どんな時もCコースかもしれません。
だって……ドローが好きだからッー!
チェスは確かに引き分けの多いゲームですが、それはある程度の経験値と技術のある人の話で、ビギナーはほとんど引き分けになんてなりません。
引き分けという選択肢を戦略の中に組み込み、かつそれを実現するために必要なある程度の技術をお互いが持っている時に初めてドローが成立するのです。意味もなく、まだ戦いも始まってないのに突然ネタでドローオファーしてくる楽しいおっちゃんもたまにいるけど。
チェスは引き分けを発生させやすいゲームだからこそ、初めから2つの目標(可能性)を内包した戦略をたてることが出来るわけですね。そういう戦略的ドローを内包した内容を味わうことが出来れば、もっとチェスは楽しくなると思います。さあ、アナタもレッツ・ドロー!
戦争の目的は相手を殺し尽すことではなく、戦略目的を達成することだと、確かクラウゼヴィッツという人が言ってたような気がするのですが、チェスで言えば一方が勝ちを目指し一方がドローを目指して結果ドローになった場合、戦略目的を達成した方が戦略上の見地から言えば勝者なんですよ。まぁ極論と言えば極論ですが。
以上を踏まえて。ここまで凄く長かったけど。
いよいよ羽生さんの棋譜を見てみる。
見てみる。
……見てみました。……あれ?
羽生さん、戦略的に引き分けをGETしたかと思いきや、終盤のミス(メイトを見逃し)で簡単な勝ちを逃してるじゃんっっ!
惜しい!
つか、SUGEEEEEEEEE! 勝ちそうになってるじゃないか!
ああっ!その局面だけにゃんこむすめが代わってあげられたら良かったのに!(意味のない仮定)
勝ちそこねて、勝ちがなくなって引き分けにするしかなくなった。そんなゲームでした。
ここまでの前説関係ないじゃん。
ま、それはともかく。
チェスで引き分けを実現するには、高度な戦略性と技術が必要なのだということの、雰囲気だけでも知っていただければ、にゃんこむすめは嬉しいです。キュアミューズも喜んでくれると思います。
最後になりましたが、羽生さんがどろったゲームに、にゃんこなりのコメント付けて棋譜貼っておきます。
終局近くなってきた局面は、前述の「プリキュアになったアコちゃんかわいいよ」のあたりを念頭に置いておけば、その内容を味わうことができるかと思います。多分だけど。
……これを機会に、羽生さんが世界制覇を目指してくれませんかね?
羽生「チェス王者に、俺はなる!!!」
あきら竜王座「どうぞどうぞ( ・ω・)」