蹴る
戎棋夷説さん「ヒマだからいっちょ揉んでやるわ。Chess960で相手してやんよ?」
どこを揉もうというのでしょうか?肉球でしょうか?
(注:戎棋夷説さんのセリフは事実を元にしたフィクションです)
確かに、にゃんこむすめの肉球は下手な肉球グッズ(参考:http://www.rakuten.co.jp/pawstore/)より気持ちがいいと近所でも評判の激レア肉球ではありますが、いくら師匠でもそんな簡単に揉ませるわけには参りません。とは言いつつも、(日本語の判る)強い人と対局する機会というのは意外と少ないですので、これは渡りに猫缶、とばかりに、話に乗ることにしました。
折しも、サッカーW杯、日本代表-コロンビア代表戦の行われる直前のことでしたので、よし、日本代表の善戦祈念(←勝てるとは思っていない)対局だー、ということで
「持ち時間1日制chess960、白番にゃんこ」
で対局開始したのですが、その翌日には日本代表はコロンビア代表に軽く吹っ飛ばされてしまいました(泣)。
モチベーションを維持するため、以後にゃんこむすめは日本代表ではなく、橋本環奈ちゃんのご活躍を祈念して戦うこととしました。
(今回、にゃんこむすめはこの娘のために戦った。正々堂々とね。→)
さて。
そもそもChess960とはどんなゲームにゃ?といいますと、オープニングの研究をすることが面倒くさくなってしまった(個人的な考察です)、故ボビー・フィッシャー氏が考案したのが始まりなんだそうです。初期配置をぐっちゃぐっちゃにして戦おうぜ、その方が真の実力()が出るんだぜ、ということらしく別名「フィッシャー・ランダム・チェス」とも呼ばれています。
初期配置は、下記の条件を満たす以外は全てランダムに並べられ、その組み合わせは全部で960通りあります。
1.白のポーンは通常のチェスと同じ2列目に置く。
2.残りの白の駒は1列目に置く。
3.白のキングは、2つのルークの間のどこかに置く。
4.白のビショップは、それぞれ色違いの枡に置く。
5.黒の駒は、白の駒と対称に置く。
1.の条件がないと、いきなりダブルポーンだらけという可能性や、1段目のポーンの一手目の動かし方が不毛な議論を起こしそうですし、3.がないと(例えばどちらかのサイドにルーク2つが隣り合わせに並んでいたりすると)キャスリングのルールが何だか面倒くさそうです。
そして4.の条件がないと……これは何となく気持ちが悪いことになりますね(←説明になってない)。
つまりこの「条件」とは、駒はランダム配置するけれども、チェスのセオリーは従来のものをほぼそのまま適用できる、ギリギリのラインに沿ったものだと言えるでしょう(多分)。
リアルな対局の場合、どうやってそのランダム配置を行うかというと、
プレイヤーが袋から1個ずつ取り出してテキトーに配していくらしいのですが、オンライン対局サイトだとコンピュータが勝手に並べてくれますので、そんな作業は不要です。ゲームcreateした瞬間にさくっと出来上がりです。
もし仮に、初期配置を自由に設定できるシステムであれば、3日ぐらいウンウン考えて白番が有利な初期配置の研究などするところでしたが。
例えばこれとかどうでしょうか。
1.f3
とポーンを突くと白クイーンの効きがいきなり黒のa7の地点に届きます。
これで主導権を奪って序盤を進めることが出来そうです。
他に何かないかな?……そうだネットにchess960に関する面白い記事とかないだろうか?と軽くググってみたところ、こんなのが見つかってしまって椅子から転げ落ちそうになりました。いつの間にこんな記事を書いてたんでしょうか?
さて。
戎棋夷説さんとのゲーム解説(感想)に入ります。
このゲームの初期配置はこちら。
まぁ、正直ガッカリしました。
ナイトとキングの位置以外はほとんど普通のチェスと変わりません。ぱっと見て、いつもと同じような感覚で序盤を進めても問題なさそうな気がします。
配置がカオスであればあるほど、膨大な序盤定跡の知識と理解力を持つ戎棋夷説さんの感覚が狂う可能性があり(多分)、その分チャンスがあるのではないか、と思っていましたので。
なお、にゃんこむすめの場合はカオス配置になればなるほど「はうゎー♡」とマタタビを食したシャム猫のように気持ちよくなってしまうので、感覚が狂うということはありません。誰ですかにゃんこは最初から狂ってるとか言ってる人は。
このゲームの最初のポイントはココ。
この手の狙いがお分かりでしょうか?
この時点で白は既にキャスリングが完了していますし、ここでビショップの展開を急ぐ必要はあまりないというか、先にb4とこちらサイドで戦う姿勢を見せた方がいいような気もしなくはなかったのですが、まぁ要はこの手はb8のルーク取りを狙っているのです。
そんなアホなと言われるかもしれませんが、chess960ではこういう手でぼろっと駒が取れてしまうことが、わりとよくあるのです。いつもならa8とb8の駒は位置が逆ですから。
「人間の外界にはモノはなく、ただ、識、つまり心だけが存在する」なんていう話をしだすとこのブログが唯識思想入門みたいになってしまうので以下略しますが、要するに人間の脳は目前の物理的な現実とは違うことを認識することがある、ということです。違うことしか認識しないと言っても過言ではないかもしれません。
ていうか、そんな哲学的な話をする必要はなく、Chess960では初期配置と違うが故の勘違いがめっちゃ多いってだけのことなんですけれども。
にゃんこむすめの読み(?)は、この後、
b8のルークを強奪されて吃驚した戎棋夷説さんが「ぷぎゃぁー」と悲痛な叫び声を上げ、ちょうどそのころア○ラ君を寝かしつけていた奥様が「じゃかましいわ!」と戎棋夷説さんの後頭部に蝶野正洋直伝のケンカキックをお見舞いする、というものだったのですが、師匠はあっさり 5...Nd6でした。ちょっと残念。
(注:この段落はフィクションです。戎棋夷説夫人と蝶野正洋との間に師弟関係は存在しません。というか、そもそもケンカキックとかしませんし)
次のポイントはこの局面。6...g5
白の5.Bf4を直接咎めに行った手ですが、これは全くの無警戒でした。ちょっとは見えていたけれども全然読んでいませんでした。
戎棋夷説さんは空間を広く支配する局面を好まれますので、今にして思えば第一候補として警戒しておくべき手だったのですが、正直、にゃんこむすめの感覚では一目無理っぽいのと、それよりもナイト大好き師匠のことだからまずはaサイドのナイトの活用を図るのではないかと考えていました。
ともあれ、この手でこのゲームの骨子が決まります。
黒の狙いはhサイドに駒を集めて白キングに直接アタックをかけることですので、それに対抗してこちらもhサイドに駒を集めつつキングの脱出路を確保しておき、あわよくば2つのルークを地下鉄を通してhファイル側に移動する手も考慮しておく。
黒の攻撃形とキングの位置が確定したら、そこへ向かってクイーンの射程を向ける。
というのが大まかなプラン。
大まかなプランというのは大抵は実現しないものですが、そもそもチェスというのはプランを考えている時が一番楽しいので、ダメ元でも一応立てておくものなのです。
これが終局の図面。
何故かここで師匠がドローオファーしてこられたのであっさりアクセプト。
聞けば戎棋夷説さんは、こういう局面で
「引き分けを提案して、断られたら何がなんでも打開して、最後は相手に後悔させる、というのが私の常道の駆け引き」
らしいのですが、そんな駆け引きがにゃんこむすめに通用するはずがありません。だってにゃんこは……
ドローが好きだからー♡。
ていうか、この図の白のキング周辺の形がとても気に入っていたので、このまま保存したかった、というのがドローに乗った最大の理由だったのでした。
何かこう、将棋だとミレニアムとか銀冠みたいな感じ?。チェスだと滅多にお目に書かれない形だと思います。
そもそもこのゲームではもっと早い段階で黒から「...Ng3」のようにナイトを捌いてこられる手を中心に読んでいたので、白のこの形は「予定の1つ」ではあったけれども、まさか実現するとは思っていませんでした。
形にこだわるにゃんこむすめの棋風を慮った戎棋夷説さんが、あえてそういう展開に持って行かれたのではないかと推察しているのですが、まぁこれは浅はかな猫の考えることですので、実際はどうだかわかりせん。
ワールドカップの最中のとても楽しい一局でした。またいずれ、再戦を挑みたいな、と思っています。できればもっとカオスな初期配置で!